TUCAN国際共同実験

TUCAN(TRIUMF UltraCold Advanced Neutron)国際共同実験は運動エネルギーが300neV程度以下の極低エネルギーの中性子(UCN: Ultra-Cold Neutron)を用いて中性子電気双極子モーメント(EDM: Electric Dipole Moment)探索を行っています。

UCNは、微弱な力に敏感です。 電磁場中での超冷中性子スピンの歳差運動様子を精密に観測することでEDMを測定することができます。 本グループは世界最強のUCN源と次世代EDM測定法を用いて、測定感度を1桁改善し、 時間反転対称性を破る力を解明し、宇宙における物質創成の謎を解明しようとしています。

EDM測定法

中性子は大きさ1.91μB の磁気双極子モーメントを持ちます。このため中性子は磁場中で最差運動を行います。この最差運動の周期は磁気双極子モーメントの大きさと磁場の大きさに比例します。同様に電場中での電気双極子モーメントも最差運動を行います。電場・磁場の両方が存在する系で、中性子の最差運動の周波数を測定し、磁場のみがある系との周波数の違いを測定することにより、電気双極子モーメントの大きさを測ることができます。

中性子の歳差運動

超冷中性子源

TUCANでは加速器中性子源で生成した中性子をスーパーサーマル法を用いて冷却することによってUCNを生成します。 TRIUMFのサイクロトロンで約500MeVに加速された陽子をタングステンのターゲットに照射し、核破砕反応によって原子核ないの中性子を取り出します。 取り出した中性子はMeVオーダーの運動エネルギーを持っていますが、常温の重水(D2O)モデレーター、20Kに冷却された液体重水素(D2)モデレーターでの中性子-重水素弾性散乱によってそのエネルギーを1 meVオーダーまで減速されます。 1 meVに減速された中性子が超流動ヘリウム内のフォノンを励起することでさらに減速され、300 neV以下の運動エネルギーしか持たない超冷中性子となります。

UCN生成法